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65歳雇用延長制度 導入の課題

【労使時局研究会 第17回会合】65歳雇用延長制度 導入の課題

講師 敬愛大学経済学部 准教授 高木 朋代 氏

平成25年10月31日(木) 1400-16:30  さいたま共済会館
 
4月、希望者全員を段階的に65歳まで雇用することを義務
づける、改正高年齢者雇用安定法が施行された。義務化の
背後に潜む人事管理上の問題点について述べたい。

1. 高年齢者雇用問題に関する一般論と真の問題

労働力人口の減少と2007年問題
一般には、労働力人口が減少するので、高年齢者、女性、外国人で埋め合わせすると言われる。2007年をピークに団塊世代が退職し、職場から知識技能が失われる。技能継承のためには高年齢者が必要だとも言われた。高年齢者雇用安定法の改正が行われ、段階的に65歳まで段階的に雇用継続する、この結果、2012年に退職の波が移るだろうと問題視された。しかし高齢者雇用はさほど進展してない。 “真の問題”は別にあると思う。
企業における雇用の現状
企業は、高年齢者についての人事制度の有無にかかわらず、必要人材は戦略的に個別に継続雇用している。2004年の改正で、■定年の引き上げ ■雇用継続制度の導入 ■定年制の廃止を目指すこととされたが、2012年厚生労働省調査では、30人程度の小企業を含めたデータで、定年制廃止した企業は2.7%、定年年齢を引き上げた企業が14.7%、それ以外は60歳に定年を置き、継続雇用でまかなう。300人以上の規模の企業では、定年制廃止した企業は0.4%、定年年齢を引き上げた企業が6.2%、それ以外の9割以上が、60歳に定年を置き、継続雇用でまかなうことをしている。全員を雇用継続するのは難しい…というのが実情だ。

2.2012年改正法で雇用は増えるのか ?

就業実現までの意思決定プロセス
さまざまな意識調査では、60歳以上でも働きたい… との志向が出て
いる。8割、9割がそうだ。しかし、これを会社側に就業希望表現するか
となると違ってくる。ある調査では手を挙げた人は22.2%、まだ思案中
69.7%。すぐには就業希望を出すわけではない。
経済的に余裕のある高年齢者は、労働の質を考える、また、転職を
含めたさまざまな意思決定プロセスがある。
雇用を妨げる「自己選別」 問題
ジョブローテーションにより、企業を改めてよく知り、自分の立ち位置/企業における存在価値、定年後働いたらこう働くのか等、自分が60歳以上で継続雇用に名乗りをあげるか否かを選別する意識が生まれる。
また、生涯設計セミナーやキャリアカウンセリング等のプログラムを受けることは、自分のたな卸しをすることにもつながり、ここでも自己選別が生まれる。企業側が欲しい人材、自分は企業から請われる人材のようだとの両者の意向は、こうして自ずと (90%以上) と一致してくる。企業が望まない人材は、本人も希望を出さない。
「すりかえ合意」 問題
職務志向の強い人材で、会社を辞めたいと思うようなできごとに出会った経験するなど、より敏感に反応するタイプの人材、組織に
埋め込まれる程度が低い方々は、定年転職の道を選ぶと見られる。自分の性向と転職の選択を自分で納得合意することになる。
暗黙の選抜はなくならない
業績上、会社に余裕が無い、長年世話になった会社に迷惑をかけたくない、身を引こうといった、暗黙の選抜もある。
こうした考え方は無くならないと思う。

3.選抜の背後にある公正理念

雇用機会の割り当て(分配問題)
雇用継続によって得られる機会、所得、自尊などの追求は、誰に割り当てられるべきかという、社会的基本財の分配問題に直面することである。
分配原理への相互承認と選抜の始動  暗黙の選抜への合意
雇用継続によって得られる基本財の分配で、分配の公正性について目が向くが、一貫した人事管理を受けることで、従業員たちは、いずれ行われる雇用継続者の選抜において適用されるであろう原理原則に、共通の了解を得ることに既に参加している。その企業固有の評価尺度を認識し、どのような人材が求められているかを了解、自己選別という行動を始動させる。選抜における合意は、上層部の意思決定ではなく、当事者の聞から、下から積み上げるかたちで形成されていく。選抜の原理を皆が採択し承認している。
抜け駆けも、不満も、誰かを不幸にすることも基本的には生じえない。

4.雇用をマネジメントする

雇用の促進vs雇用の抑制
現状は企業にとって、定年到達者全員を雇用継続することは難しい。法という規制の枠組みが整えられても、制度を設計し運用していく企業がこの枠組みを有効化する仕組みを持たなければ、期待通りの効果は得られない。暗黙の選抜メカニズムは今後も作動していくであろう。人事管理を整備し、「自分は雇用継続されてよいのだ」という認識が従業員たちに広く行き渡れば、就業希望者は
今後確実に増える。逆に、これまで定年退職制度が雇用調整の役割を果たしてきたが、これからは雇用継続後の就業条件や雇用環境をどのように整えるかによって、定年制度に替わる新たな雇用調整の手法ともなりうるということになる。
雇用の圧力が雇用保障を揺るがす可能性について
改正高年齢者雇用安定法の背後には、さらなる問題がある。強すぎる雇用圧力によって60歳以降の雇用どころか、60歳までの雇用が危ぶまれる可能性がある。高年齢者雇用を推進する体力を持たない企業では、厳しすぎる法規制を回避する方策がとられてもおかしくはない。2009年の労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用・就業の実態に関する調査」(2009)では、定年を迎えず50歳代で引退する人が38.7%にのぼることがわかった。
企業グループでの雇用の問題について
今回の改正で、グループ企業での雇用継続が認められた。高齢者だけを集めて辺片業務をさせるといった問題が起きる可能性がある。
賃金システムの問題について
多くの定年到達者が雇用継続された場合、増大する人件費は、これまで以上に大胆に、全社員を対象として賃金の上昇を抑制することで賄われていくだろう。またこれと併せて、成果・業績評価を賃金に反映させる人事制度が加速していく可能性もある。

5.雇用の促進に必要な視点

企業にとって意味のある雇用とは
どういう人が雇用継続されているのか
どうすれば雇用継続される人となるのか
マネジメントに必要な視点
高年齢者雇用が企業にとっても意味あるものでなければならない。
もっとも確実な方法は、定年を迎えてもなお居続けてほしいと思える人材を、できる限り多く企業内に生み出すことである。
分析してみると、生産系も事務系も同じ職能でのより厳しいキャリアを計画的に経験してもらうことが育成効果が高い。

働く側は、企業が雇い続けたいと思える人材となるために、生涯を通じて精進していかねばならない。
計画的な人材育成は、企業と従業員がある程度長期的な関係を前提に、腰を据えて忍耐強く、雇用し続けたい人材を育てるという考えと、従業員が「雇用され続ける人材に育つ」という考えを持つ
ことによって可能となる。
 
社会全体として必要な視点
ある国際的な調査で、日本に特徴的だったのは、「政府は、年金を充実するよりも就業機会を増やす努力をすべきだ」という意見が他の国に比べて多いという結果だ。日本は、働き続けたい人達を軸に活性化や成長ができるのではないか。
人材を育てることができる企業は、高年齢者雇用だけでなく、持続的な発展ができる企業となるだろう。また、65歳になっても請われ働き続けられるような有為の人々が、日本のみならず、国際社会の未来を拓いていくに違いない。
このように考えると、少子高齢社会の中でこの国の持続的発展を見据えるならば、企業は正規従業員の雇用を維持・拡大していくことに対して、一層の努力をしていくことが求められる。また政府は、企業が行う正規雇用努力に対し、もっと強い支擾をしていく必要がある。
基本的には長期的視点に立った雇用関係の下で、人々は安心して必要とされ続ける人材へと成長していけるのであり、その先に、無理のない希望者全員の雇用実現があるのではないだろうか。
 
 ( 文責:事務局 )
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