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日本企業の再生、失敗学から学ぶ

日本企業の再生、失敗学から学ぶ  平成22年定時総会 2010年5月31日

飯野 謙次
特定非営利活動法人 失敗学会 副理事長
Stanford大学 機械工学 情報工学博士
参加者 50名

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失敗学会

1, 失敗に学ぶ

失敗の原因には「直接原因」と「間接原因」がある。直接原因は物理的なもので、第三者が見てもわかりやすい。 指摘しやすい。間接原因は、背景要因/根幹原因とも言い、根っこに何があったのかである。
人為的な場合が多く、わかりにくく、指摘しにくい。直接原因を究明し、無くしても、間接原因が対処されないと、同じような失敗が、違うところから、違う形で出てきてしまう。根幹原因を追求することが重要である。
 
さて、原因を究明し情報となっても役に立つとは言えない。「情報」と「知識」は違う。情報の中から知識を抽出して自分の中に蓄え、生かすことにより初めて役に立つ。

この、「知識」を人に伝えるにはどうするか? 報告書を作り、文字列を並べて説明する。
しかし、イラストを加えて活用すれば、読む人に具体的なイメージを湧かせ、疑似体験させることができる。他方、正確な文字による説明を無くしての、絵やイラストだけでも不足が起きる。右脳と左脳をバランス良く活性化させるのが、知識を伝えるうまいやり方だ。

2, うまくゆかないのはなぜか

文部科学省が5年位前に、製造業での失敗事例1000件を収集した「失敗知識データベ^ース」を作り、誰でも参照できるようにしている。しかし、知識の伝達だけでもうまくゆかない。

インテルのムーアが指摘したムーアの法則、「ICの集積度は2年ごとに倍になる」に従えば、20年後には2の10乗、1000倍になるということであ る。実際、デジタル記憶媒体や転送速度の性能向上のスピードはめざましい。情報量の増加も飛躍的だ。しかし、人間の情報処理速度はどうだろうか。縄文時代 の人の能力とさほどに変わらない、となれば常に「情報過多」に陥っている。

「情報過多」に、現代人はどう対処しているのだろうか?
期末試験が近くなると、授業に毎日出てノートをきれいに作っている学生には友達が急に増える。ノートを借り、コピーをして、希望する学生に配り、代金をや りとりする。この作業を成し遂げたり、コピーを手にしたことで何となく勉強した気になってしまう。情報処理/それ以外の作業でも、「人や機械のルールを鵜 呑み」、「ファイルするだけ、考えない」、「形が整えば良い」ということになっている。

このうち、「形が整えば良い」 ということについては、日本人の形式・規則崇拝として根深いものがあると思われる。 堺屋太一さんが、著書の中で、「特定の環境に過剰に適合した者は、環境変化に対応し難い。古来、多くの生物がその故に死滅した。人間のつくる組織や社会もまたそうだ」と指摘している。

3. 事例を考える

福知山線事故では、事故に至るまでの運転手の行動にいくつもの不自然さが見られた。電車を運転するには不適格であるサインを出していたが、交代させる仕組みが無かった。
パロマの湯沸器事件では、そもそもの設計/構造に問題があり、サービスマンはお客様のためにということで端子盤での不正改造を行っていた。
食品偽装事件を起こした赤福と船場吉兆を比較してみると、船場吉兆が記者会見で、精神論での改善アピールに終始したのに対し、赤福は問題の冷凍設備を廃 棄し、それまで包装紙に打っていた製造日付を、不正ができないよう箱に打つようにしするなど、仕組みを改善した。やがて赤福が営業再開できたのに対し、吉 兆の方は料理の使い回し事件をさらに起こし廃業に至った。

4, どうすればいいか -創造的な仕組み/検証テスト

注意力に頼ってはミスはなくならない。人の注意力には限界があり、注意力に頼ると失敗を繰り返す。解決策を考え出し、それをシステムにしてしまうという「創造的失敗撲滅の仕組みを工夫」することである。
検証テストにおいて、厳しい条件で行うだけではだめ、壊れる時はどういう条件かまで見極める必要がある。海外では品質が悪かろうと検証テストを厳しく行う。日本では品質の良さに頼るところがあり、検証テストへの意識が緩いように思う。
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